CLEAR WATER クリアウォーター


 キーウエストからヒッチハイクで来るとちゅう、三回もパトカーに尋問された。
 ボクのパスポートは渡米後半年で切れていたので、いつも持ち歩いていない。
 マルコムXの流れをくむ黒人組織と友だちになったり、アメリカ政府と戦争をしたインディアンのリーダーとも会ったりした。KKKの反対デモに行ったとき、FBIのカメラマンにインタヴューされたこともある。ボクは政治意識などからっきしないが、そんな記録が残っていたらたいへんだ。幸い自分のアート作品が紹介された雑誌をもっていたので、ポリスも人間扱いしてくれた。
 やっと粉じじいに再会できた。
 真っ黒に日焼けし、肉づきもよくなった粉じじいは、うらやましいくらい健康になっていた。新しくオープンした高級シーフードレストランのシェフになった粉じじいは、空腹で倒れそうなボクに超豪華なディナーをごちそうしてくれた。メキシコ湾から程近いアパートは、清潔で、安全で、快適だった。
 毎朝海岸までジョギングし、泳ぎ、食べ、眠る。
 ブルックリンの地下ロフトとは正反対な生活。
 この二週間、完全にジャンクをやめている。
 健康で、平穏で、満ち足りた生活が、
 どうにも我慢できなくなってくる。




 
時の地肌

ランラランラ ランララン シャンプープップ
ランラランラ ランララン シャンプープップ

 つらい浮き世のわずらいごとを
 ガシガシ落とそうシャンプープップ
 甘い潮風たわむれごとを
 プキプキ泡立てシャンプープップ

「皆様 シャンプーまえには爪を切りましょう
 指先にたまったしつこい爪垢まで
 ほうら こんなにきれいにとれるんですのよ」

「わあお それは大発見ですこと!」

ランラランラ ランララン シャンプープップ
ランラランラ ランララン シャンプープップ

「なによりデリケートなお肌を痛めません
 インディアンに頭皮をはがされても
 きっと先方はお喜びになると思います」

「わあお なにごとも思いやりなんですね!」

ランラランラ ランララン シャンプープップ
ランラランラ ランララン シャンプープップ

 時のさだめにぬけゆく髪を
 ウッシャリ流そうシャンプープップ
 すぎた恋など未練ごと
 シャバランすすごうシャンプープップ

「皆様 シャンプーあとにはノケランポ〜ンになりましょう
 そのようになされば
 毎日毎日を新鮮なおどろきで暮らせるではありませんか」

「わあお それは素敵ですこと!」

ランラランラ ランララン シャンプープップ
ランラランラ ランララン シャンプープップ

「なにより脳みそが腐りません
 ジャップにミソスープにされても
 とってもおいしく召し上がっていただけると思います」

「わあお なにごとも愛情なんですね!」

ランラランラ ランララン シャンプープップ
ランラランラ ランララン シャンプープップ




 
それはアルマジロにあるまじきことですぞ

アルマジロが死んでいる
アリがたくさん喰らってる
ボクはちょちょんとついてみる
かなしい弾力ひびかせる

ボクはアルマジロが好きだった
子どものころ動物園で会ったからだ
背中を丸めてちょろちょろしていたからだ
臆病なくせに真っ直ぐにしか走れなかったからなんだ

アルマジロが死んでいる
銀にお日様照りかえす
ボクは尻尾をもちあげる
ゴロリ重たいおどけ顔

ボクはアルマジロを愛していた
少年のころEL&Pのアルバムジャケットで見たからだ
グレーのコートでストリートにうずくまっていたからだ
とがった鼻で目をつむっていたからなんだ

アルマジロが死んでいる
顔はふにゃりと笑ってる
ボクはふりむき去っていく
ひゅるり緑の風が吹く




 
ビキニ犬

フローリダ フローリダ
青いお空にバーガーキング
木目はみんな印刷で
植木はみんなプラスティック
 五〇セントのコーヒーを
 五回もおかわりできる国


フローリダ フローリダ
緑の芝生にホリデイイン
じいさん黄色いアロハシャツ
ばあさんピンクのパンタロン
 子どものまんま年老いて
 赤子のように死んでいく

フローリダ フローリダ
たとえばここが奴隷の国でも
たとえばここが姥捨て山でも
ビキニで犬と散歩する
あの娘のおしりは いかしてる




 
抱きしめて先生

白い殻のなかでボクは卵になった
頭はやけにホヨホヨしてて
体はとてもトヨトヨしている
 なんとなく 安らかに
 それとなく 満ち足りて

白い殻のなかでボクは卵になった
夕日に鼻水をすりつけて
ジェリーの海で空中遊泳
 なんとなく もどかしく
 それとなく ほっとして

白い殻のなかでボクは卵になった
「大人になったら最高の目玉焼きになってみせます!」
「明君 先生心からえらいと思うわ
 いつまでも その責任感を忘れちゃだめよ」
 なんとなく 生まれるまえに
 それとなく つぶれてしまえ!




 
浮気なうんこ

うんこがフロリダ色になった
オレンジの食べすぎか
太陽のあたりすぎだ
おまけに一日五回も出る

ニューヨークのウンコは黒かった
そして固かった
まるでマンハッタンじゅうの愛と憎しみを練りかためたように
おまけに二日に一回だ
(それはジャンキーが血で汚すので 街のどこでもトイレを貸してくれないせいだ)

うんこは人をあらわす
うれしグソ
かなしグソ
さみしグソ
うんこを見れば
「ああ この人は妻の浮気に心を痛めているなあ」
とか
「この人は新婚ほやほやで 湯気が出るほど幸せだなあ」
などと 一目でわかる

茜(あかね)色した夕焼け雲を
白い海辺で見送りながら
今日一日分の思ひ出が
激しい人生の荒波に
もまれ巻かれて消えていく




 
まんそでのべんて(お座敷小唄のメロディーで)

ちゃんちゃら ほんがらがった
ちゃんちゃら ほんがらがった

 うぴともひせか
 ぽろむきか
 せどきまんそで
 かきうんひょ
 もきどせぶらき
 かきゃべんて
 さむろごんたれ
 れみぎゃんて

ちゃんちゃら ほんがらがった
ちゃんちゃら ほんがらがった




 
永遠の大爆笑

青いカタツムリの殻をかぶって
砂嵐の海岸を歩き続ける
永遠の悪夢を
マイアミもタンパもジャクソンヴィルも
都市はすでに廃墟と化し
生きのびた人々の頭には
なま暖かい死体をむさぼり食うことしかない
横倒しになった殻には少女の腐乱死体
やせ細った腕に抱えられたバービー人形に
ボクは思わず微笑んだ
 こうしてみんな埋もれていくんだ
 こうしてみんな眠りにつくんだ

ボクが目を覚ましたとき
ウィンドウガラスのむこうでは
火星人の生徒たちが考古学のノートをとる
ボクの骸骨が笑っていると
足をからませ大爆笑!
 こうしてみんなくりかえすんだ
 こうしてなにかつたえていくんだ




 家康のダイエット

ゆうあま さんしゃい
まあおり さんしゃい

 夏風涼し日光で
 ボクは旅篭(はたご)の番頭さん
 君はぞうきんかけながら
 赤い紬(つむぎ)の女中さん

番頭「はあい アンマリイローゼンクイフトちゃん
   三名様お着きいー!」
女中「いらっしゃいませ
   ずいぶんお車が混んでたでしょう?」
  (パリッ パリッ!)
番頭「こらあ アンマリイローゼンクイフトちゃん
   お客様のまえで満月せんべい食べちゃいけないって
   あれほど言ったでしょ!」
女中「だって家康最中だと太るんですもの」

ゆうあま さんしゃい
まあおり さんしゃい

 まだ雪深い花巻の
 ボクはいばった市長さん
 君は眼鏡がずり落ちて
 そろばんはじく助役さん
市長「おい アンマリイローゼンクイフト君
   年度末報告のワイロ予算はできたかね?」
助役「はあ それが
   そろばんをうちの子がローラーブレードにして壊したものでcc」
市長「なにい アンマリイローゼンクイフト君
   君が予算をダイエットティーに使い込んだことぐらい知っとるんだ!」
助役「そんなこと言ったって市長だって
   教育予算をぜんぶ喜春って芸者につぎこんじゃったじゃありませんか!」
市長「ええい うるさい!
   cc愛してるよ」
助役「わだすも
   まえからcc」

ゆうあま さんしゃい
まあおり さんしゃい




 しわくちゃ太陽

Let'ts get out here !
とにかく頭が狂いそうだ
え、まえから狂ってんじゃないかって?
ちがうちがう
正常に狂うんだ
 海もある
 太陽もある
 ビールもある
 オレンジもある
 食いもんもどっさりとある
 異様に快適なこの部屋もある

Let'ts get out here !
今にも庭でバーベキューしてる
やつらの首を絞めそうだ
 ボクは眠った
 ボクは走った
 ボクは泳いだ
 ボクは焼けた
 もう針の痕なんて
 すっかり焦げついちまった

Let'ts get out here !
車がないとどこへも行けないなんて身体障害者
えさを与えられ
清潔なかごに住まわされ
近所の人はしわくちゃの笑顔をくれる

Let'ts get out here !
お願いだ
「偽びっこの乞食野郎!」
って石を投げてくれ
このひたいがパックリ割れるくらいの
でっかい石をだ
そうすればボクは海まではいずっていって
カモメのえさになれるだろう

救急車なんて呼んだら
しょうちしねえぞ!!




 それはアルマジもひどいじゃないすか

くらあい くらあい ジャングルから
地球のいびきが聴こえるころ
月の光に照らされて
アルマジロが生き返る
短い手足で伸びをして
とがった頭をふりながら
 復讐だアルマジロ!
 ぶち壊せアルマジロ!

とおおい とおおい ハイウェイから
銀の戦車がやってくる
いならぶ車は大炎上
風穴あいたモーテルからは
裸の男女(なんにょ)が逃げまどう
 怒るんだアルマジロ!
 ぶち殺せアルマジロ!

うおうん うおうん パトカーが
いくらそこらを探しても
小さなお池にぽっかりと
月のお盆がゆれるだけ
丸い背中を抱えこみ
黒い瞳で泣きながら

 おわったねアルマジロcc
 おやすみよアルマジロcc




 そらにしてもあおぞれ

エアプレーンに見捨てられたヒコー少年は
バーベキューチキンに見送られて
北へ帰る汽車に乗る

海と空へは投げキッス
しわくちゃババアのウェイトレスには
五〇セントの手切れ金
 汽車は出てゆく日暮れの街を
 明日の朝には雪の街

灰犬バスグレイハウンドをみかぎった野良犬少年は
赤首男レッドネックに悪態ついて
北へ向かう汽車に乗る

シャツや頭の砂つぶはらい
ガキを抱えた黒色(こくしょく)じじいの
ああ ぬくもりに目がくもる
 汽車は出てゆく海辺の街を
 明日の朝には石の街

流れてゆく
 流れてゆく
  流れてゆく
列車という
 ボクの
  なかで
窓という
 瞳の
  むこうを
朽ち果てた家々
 立ちつくす木々
  歩みゆく人々
どんなに美しい夕日も
 引き止めることは
  できない
どんなに淋しげな荒野も
 とどまることは
  ゆるされない

流れてゆく
 流れてゆく
  流れてゆく
受けとめた風景を
 また惜しげもなく
  放り投げる
つぎの風景を
 笑顔で
  受けとめるために
捨てるときも
 笑顔で
  送る

それにしても青空!


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第一章ニューヨークへもどる
第二章キーウェストへもどる
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