絶対0度の孤独

路地裏の悪ガキども、今日も街角からうそっぱちのラヴソングがうすっぺたい孤独をたれ流しつづけている。そんなもんにロンリーロンリー傷をなめ合っていると”ロンリコン”になっちまうぞ!
質問「誰もぼくをわかってくれないんです〜」
答え「他人に理解されるほどいい子になってたまるか!」
質問「わたしって淋しがり屋なの〜」
答え「勝手にそんなショップをオープンすんな!オープンするなら人に喜ばれるところをオープンしろ!」
質問「オレっていつもひとりぼっち」
答え「自分の足で立て!それが本当のひとりボッキだ!」
いいか、ここに本物の絶対0度の孤独をくぐり抜けてきた男がいる。クールな頭脳とナイーブなハート、そして何よりもチャーミングな笑顔。オレは世界中が反対しようと、この男を”カッコイイ”と言い切る。ほらほら、また勘違いしてすぐ犯罪に走るバカがいる。ある意味で犯罪なんて簡単かもしれない、しかし問題はその後だ。重いチェーンを引きずりながらも自分の足で歩き続ける。人々に嘲られながら、真冬の街でも男はいつも裸だ。男が通 り過ぎた轍の下からは、鮮血のような薔薇が白い雪原に噴き出すだろう。薔薇の名前は『霧の中』『蜃気楼』『サンテ』、、、
男の名前は佐川一政。もしこの名前を知らないのなら、『殺人ケースブック』なんかじゃなく、彼の小説を読め。なぜって彼はもう法律上の犯罪者ではなく、文学史を脅かす最も危険な芸術家なのだから。

S:佐川一政 X A:AKIRA  写真:三田村光土里

S「それハッシッシですか?」(笑い)
A「いえいえ、オランダのタバコです」
S「オランダならマリファナですか?」(爆笑)
A「ちがいますって!普通の巻きタバコです。佐川さんは何かやったことがあるんですか?」
S「いいえ。最近は糖尿病でアルコールや肉も止められているんです。よかったらビールどうぞ」
A「ありがとうございます。佐川さんと本の存在は昔から知っていましたが、どうせ犯罪者が書いた際物だろうなどど勝手に決めつけていました。ところがはじめて『霧の中』『蜃気楼』を読んで凍り付きました。何か純粋な結晶に触れてしまったようで、自然に浮かんできたのが”絶対0度の孤独”って言葉なんです」
S「『蜃気楼』のなかに書かれてる犯罪に到るまでの心理状態は、たしかに孤独の一断面 だと思います。もちろん刑務所の中も孤独にはちがいありませんが、それよりも今までと変わらない日常があって、しかも自分の心理状態とは完全に断絶しているというギャップに落ち込むときが一番孤独なのでしょう。」
A「オレは『霧の中』により強い孤独を感じたのですが」
S「『霧の中』は少し甘いと思う。ルネという存在が美化されすぎていて、一種の恋愛小説になってしまっていると思うんですが、事件そのものはもっと凄惨なものですよね?ルネは偶然そこに現れた女性であって、その前にも娼婦とかを狙ったりしてますし」
A「図書館行って『霧の中』を探したんですが、なんとルポルタージュのコーナーにありました」(笑い)
S「実際『霧の中』の方が評価は高いんです。吉本隆明さんや中上健次さんがすごく高く評価してくれてました。『蜃気楼』が出たのは事件の10年後というせいもあって、まったく反応がなかったんですよ」
A「そんなにかかったんですか?」
S「いいえ、作品自体はフランスの精神病院で書き上げました。日本の精神病院ではひどい投薬をされると聞いていたので、どうしてもそこへ移される前に完成させようと思って。病院の消灯時間を必死に頼み込んでぼくだけ夜中の3時にしてもらい、しがみつくように書いてたのが『蜃気楼』です」
A「作品が創られる場所っていうのは非常に重要だと思うんですが、サドもジュネもドストエフスキーも刑務所の中で書いてますね」
S「あらゆる自由を剥奪された場所で、精神的バランスを保ってゆくひとつの手段です。ぼくももし『霧の中』を書いていなければ、そのバランスを維持できたかかなり怪しいですね」
A「肉体が拘束されればされるほど、精神は自由に羽ばたいてゆく。創作という行為はどんな極限状況をもプラスに転化させる、人間にとって最後の救いなんですね」
S「刑務所の中で思ったんですが、”芸術とは失われたものへの郷愁である”って。ルネという永遠に失われた女性に作品の中で会いに行ける、それを自分で創作できる喜びっていうのは明らかに感じてました」
A「すべてのエネルギーがたったひとつの出口に向かって突進してきますからね」
S「恵まれた日常を送っていると感覚が鈍りますね」
A「うーん、オレも病的な放浪癖があるんですが、一番きびしいところへつい行っちゃいますね。戦争中のイランや真夏のセネガルや真冬のチベットとか。でもそういうところへ行くと、野性の生命力が蘇ってくるのがひしひしわかります」
S「回復力っていうのはひとつのパワーですね。極限状況や病気や怪我など、なにか欠けたものを回復する力っていうものが創作力に変わっていくんです」
A「回復力、、、いい言葉だなー」
S「だいたい創作するってなにか欠けているからするんであって、精神的にも満ち足りてる生活してたらあんなつらい行為はしませんよね」
A「オレのやってるスカトロアートなんかウンコ、ションベン、血に精子で絵や書道をするもんだから身も心もヘトヘトになりますね」(笑い)
S「体をはってますね」
A「時々放り出したくなります。チベットの山寺で坊主にでもなろうとか」
S「去年、冬のノルウェーに行ったんです。馬ゾリに乗って夕暮れでした。夕日が白い雪面 に照り返ってピンクやコバルトブルーに変わってゆくんです。すべてのことを忘れ去って、こんなところに死ぬ までいられたらなぁって思いました。もちろん叶わぬ夢とはわかっているんですが、、、」
A「雪はあらゆる汚れを覆い隠してくれますからね。一度ヒッチハイクで野宿してた時、目覚めたら寝袋ごと雪に埋もれてしまってたことがあります。もう凍死寸前でした」(笑い)
S「ぼくにもひどい思い出があります。父に無理矢理スキーに連れて行かれて、山までの長い道を重い荷物をしょって歩かされました。スキーをかついだ自分の影が長く伸びて、ゴルゴダの丘に引っ張られるキリストじゃないんだから」(大爆笑)
A「雪景色どころじゃないですね」
S「初めて雪景色に感動したのはドイツで、バンベルグっていう街で友達の個展へ行った時、列車の窓を流れる樹氷がものすごくきれいで、川端康成の『雪国』とシンクロナイズしました。それ以来雪景色には特別 な思い入れがありますね」
A「佐川さんの中で雪景色を含む白って色は白人とも結びついて来るんですか?」
S「来ますね。北欧系の女性の美しさは単に金髪碧眼っていうだけじゃなく透き通 るような肌、あのうっすらとピンクがかった肌は、一度魅惑されてしまうと逃れられないものがあります」
A「オレもなぜかスウェーデンの女の子と気が合いますね」
S「やっぱり鷹揚なんです。のんびりしてて、、、この間のドイツなんかひどかったですよ。空港で税関がいきなりザガワー!って叫んで、独房に閉じこめられました。ひどいですよ、独房は窓ひとつなく、床には血糊が付いてました。こっちは完全に合法だったのに2時間も出してもらえませんでした」
A「パスポートは限定なんですか?」
S「そうです4ヶ月の。これじゃノルウェーに住むなんて99パーセント不可能です」
A「オレもアメリカに5年不法滞在していたんですけど、最初の半年でパスポートも切れちゃって。4年目に奨学金の試験にパスした時、おそるおそる聞いたんです。実は違法滞在なんですけどって。そしたら先生が”THIS IS AMERICA”って」(笑い)
S「日本に帰る時はどうしました?」
A「領事館で30分ぐらい説教されて、1週間で帰国専用の限定パスポートをもらいました。でも去年の12月もニューヨーク行って来ましたし、だいじょうぶみたい」
S「ぼくはアメリカだめだったんですよ。パスポート取りに行ったら、ヴィザを最初に取ってきてくれって言われてアメリカ大使館行ったら、窓口にぼくの資料が山のように積み重ねられていて断られました。絶対外務省が手をまわしているんでしょうね」
A「話は変わりますけど、この前のホームパーティーでもたくさんの友達がみえられましたね」
S「70人くらい来てくれました」
A「事件の前より友達ふえましたよね?」
S「事件の前は本当に心を開いて話し合える友達はいなかったですね。もちろんカニバリズムの話なんかできなかったし、もしそんな親友がいたらあの事件には到らなかったかもしれない。思春期に女性を性的対象として見る見方がぼくの場合ずれていたんですね。そのずれっていうのが自分でも自覚できましたから、自分だけがおかしいんだと思うこと自体がかなりつらかったですね。今は本当に楽になりました。だって隠すものがなんにもないから」(大爆笑)(AKIRA感動)
A「佐川さんの読者層って何歳ぐらいが多いんですか?」
S「はげましのお手紙をもらうのは、10代後半から20代の女性が多いですね。そういう若い人たちと話していると、ぼくの妄想とかにぜんぜん違和感なく理解を示してくれるんですね。あっけないくらい」
A「そうそう、やつらの理解力ってすごいですよ。きっと新しい時代を創りますよ」
S「反感を買うのは、40代50代の男性が多いです」
A「やっぱりジェラシーですね。もっとも広い意味においてこんな自由な人はいませんから」(笑い)
A「佐川さんは神を信じないと言っていましたが、作品はとても宗教的だとぼくは思います。でもキリスト教と言うよりは、ヒンドゥー教とかチベット密教に近い感じ。”フェティシズムって何?ものみな神様って信仰のようなもの”とかね」
S「宗教自体は好きなんですがどこかの教団に属すとかいやですね」
A「それってオレも同じです。”群れ”がいやなんですよ。キリストもアラーもブッダもみんな本当のこと言ってると思うんですが、それが”群れ”になったとたん真実が歪められていく」
S「その”群れ”と同じ意味で”制度”がいやですね」
A「最近またカルトものが復活してますが」
S「死体ブームは危ないですね。なぜなら死体をファッション化してますから。死体というのはあんな美しいもんじゃない。『狂気にあらず』と言う本にルネの死体写 真が載っていますが、凄惨なものです。ただあの写真はフランスの検死官によって演出がなされています。ぼくはあんな風に切ってない。しかしコーリンウィルソンがそれを見て言っていたことにも、うなずきます。ぼくが2度と事件を繰り返さないのは、あの時”現実のすさまじさに打ちのめされたからだ”と」
A「オレはニューヨークアカデミーで皮を剥がれた死体に触りながらデッサンしたり、ガンで死んでゆく母親を看取ったり、インドの火葬、チベットの鳥葬を見ましたが、やっぱ死体を隠しちゃいけないと思います」
S「きっとチベットの人たちは死を”消化”してるんですね」
A「醜いもの、汚いものを隠し続けると、いつしか人間の全体性が見失われてしまう。そのためにも日本文学が生んだ最高の奇書『霧の中』『蜃気楼』は永遠に読み継がれることになるでしょう」
S「ぼくが死んだあとで……」(笑い)


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