『し』の朗読

5月に自由が丘もみの木画廊で詩の朗読会が行われた。
主催はJO5という詩誌を発行する阿賀猥さんや青木栄瞳さんなどだ。これで詩人の人たちとのネットワークも広がる。
みんなが自作の詩を朗読する中、小川てつオとオレだけは既成の朗読を頑なに拒んだ。
てつオは「これから詩の朗読をします」と会場を飛び出していく。しばらくしてマイクを取りつけてあった会場の電話が鳴った。お客さんが受話器をとると、てつオからだ。お客さんの声だけが会場に響く。
「納豆ごはん」「テレビをつけます」「他人は他人ですから」「ラブラドールリトルバーはいいですよ」など、日常的な質問なのに、その答だけ聞くとまるで抽象的な“詩”のようじゃないか!

オレも同じくこう言った。
「これから“し”の朗読をはじめます」
オレたち4人は会場の四隅においた椅子の上に立っている。
オレが「詩」というとつぎのやつへ、またつぎのやつへと時計回りの四拍子で「詩」「詩」「詩」とまわしていく。

オレが4本指を突き出して「4し」というと、同じようにまわす。
四隅に立ってる4人のメンバーも「4し」からとっている。
今度は手をCの字にして「C」をまわす。
つぎは両手を股間にあておしっこの「シー」をまわす。
今度は椅子の足もとで吠えてる犬を追い払うように手首をふる。
「しっしっ」これは2周ずつまわるが、だんだん四拍子が速まり声も終いには絶叫に変わる。
椅子から崩れ落ちたオレたちは、口元に人差し指を立てて「しぃー」と静まる。
椅子に座りなおし、ポケットから取り出した、火薬のつまったおもちゃのピストルをこめかみにあて叫ぶ。
「死ー!」
会場に破裂音が響き、火薬の匂いが立ちこめる。
オレたちのダランとたれた手からピストルが落ちる。
“し”の朗読は終わった。

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