イケちゃん失踪!

イケちゃんは、ウクライナに発つ三日前わざわざ日光にまでやってきて、「 COTTON100%」の出版を祝ってくれた。
まさかそれが最後の別れだったとはオレも信じたくない。
イケちゃんは日本から中古のバイクを輸出して、ウクライナで修理してから売るというビジネスを始めた。オデッサに住み、年に1、2回日本に仕入れにやってくる。50台ものバイクをコンテナに積み込む作業をオレやマサで手伝った。
取引相手はもと警察長官、マフィアとも深いつながりのある男だ。ロシアではマフィアを通 さずビジネスはできない。そしてその男はイケちゃんに前回の1000ドルを支払はなくてはならない。
11月24日、イケちゃんはその男に会いに行くと言ったまま、消息を絶った。
翌日は郊外にあるガラス工場へ行くため、待ち合わせていたパートナーのところへも現れず、電話ひとつない。 几帳面なイケちゃんが連絡なしに約束をすっぽかすことはあり得ない。 イケちゃんは母親を12月にウクライナに呼ぶので、11月中に連絡すると言っていた。しかし12月10日になっても電話がない。おかしいと思った母親は、信頼のおけるオデッサの日本人に連絡して初めてその失踪を知った。
母親から連絡を受けたマサが、もと警察長官の家に電話した。すると奥さんが出て、「イケダはウクライナに来ていない」と言った。 おかしいではないか? イケちゃんはもちろん入国しているし、その家にも何度も連絡していたはずだ。奥さんがそれを知らないはずはない。
ここで考えられる可能性は3つ。
1事故に遭い、記憶喪失、もしくは意識不明状態。
2何者かに監禁されている。
3殺害 。
1では、たとえ両腕や声帯を失ったって、意識さえあれば自宅へ連絡は取れるはずだ。 2は、20日間も監禁する理由がない。 3しかないだろう。当然犯人はもと警察長官。彼が直接手を下さなくても、彼の指示にちがいない。奥さんもそれを知っているから、あんなことを言ったのだ。 しかし彼を捕まえることは不可能だ。警察はおろかマフィアぐるみで彼を守るだろうし、アジアの片隅からやってきた東洋人がひとり消えたところで誰も騒ぎはしない。 オデッサの日本人も下手に動くと命が危ない。私立探偵を雇って遠巻きに調査をはじめてくれるらしい。
別にオレは犯人が捕まろうと、捕まらなかろうとどうでもいい。 知りたいのは、イケちゃんが生きているかどうかだけなのだ。


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