新宿段ボール美術館

イチコとタケヲのキャンヴァスは新宿ホームレスの段ボールハウス。
いや、歪みきった日本の社会そのものがキャンヴァスなのかも知れない。
強制撤去、
逮捕をくぐりぬ け、
こりないヤツらはストリートへ戻ってゆく。
ペインティングが死んだと言われる現在、
彼らの姿勢はアートの原点とその未来を教えてくれるだろう。
オレたちの永遠のアイドル「アート姫」はずいぶんと長い間、ギャラリーや美術館というお城に幽閉されてきた。売れない娼婦を母にもつ「アート姫」は初め、オートクチュールや、ヌーヴェルキュイジーヌにむさぼりついたんだけど、すぐあきちまった。
「あたし、高円寺の古着屋も回りたいしぃー、250円の牛丼太郎も行きたいぃー、なによりぃーバカなやつらとぉー乱交したいのぉー!」ってなわけで、彼女をオレたちのストリートへ奪還する計画は着々と進行中である。
園子温によって渋谷ハチ公前交差点を止め続けた「東京ガガガ」、小沢剛の牛乳箱ギャラリー「なすび画廊」、双眼鏡で窓の作品をながめる高円寺脱力派「岡画郎」、取り壊されるマンションやお墓や潮干狩りの砂の中に作品を展示する「納豆漁業200カイリ」、そしてオレが画廊経営に乗り出すと宣言した、世界初の捨て看板ギャラリー「野ざらし画廊」
実際「野ざらし画廊」には、すごいメンツが集まってきた。知らない人にはただの変人集団、知ってる人には東京アンダーグラウンドのオールスター。
さっきあげた、岡画郎の小川てつオ、納豆漁業の芳賀とおる、ふるちんパフォーマンスのハイレグジーザス、ニセ薬局りるまざ堂、ダメ連総裁神長恒一、ブラック系コメディアン黒宮泰彦、「虫かご画廊」のもきち、ブッチャーアンドボンドズのコジマ兄、寒川サトミ、「MXTV」のウキャキャ監督コジマふさこ、巨大トラックをチャーターしてくれたインタヴューマガジン「TOTOTO」、創刊号から売れ行き好調の「BAD TASTE」などなど、50人もの野ざらシストがA倉庫にひしめき合った。
酸欠状態のトラックから、みんなそれぞれの捨て看作品を設置しに散っていき、ハイソな銀座の街並みに精子で描いた抽象画とか、生魚を貼り付けたやつとか、注射器や薬のコラージュとか、「心、技、体、ちんぽ」と書いた書道とか、画面 がゴミ袋になってるのとかアブなすぎる捨て看板が並んだ。
むちゃくちゃ楽しかった野ざらし画廊の中でも、一番の収穫はイチコ、タケヲとの出会いだ。
オレは何度も新宿でやつらの作品を見てるし、逮捕の記事を新聞で読んだときもトンカチでドタマをどつかれたよーなショックをおぼえてる。
「こいつらホンキだぜ!会ってみてぇーなぁー」なんて思ってるところへカモがネギしょってやって来た。(オレってやっぱ超能力者?なんて思うくらいこの手のシクロニシティーはしょっちゅうなんだ)しかも集合時間の30分前に一番乗りで!
前日のギャーテーズ(本物のお坊さんが歌うパンク般若心経)のライヴでうわさを聞いて
来たらしいが、もう「サ、サインもらえますか?」って言いたいくらいうれしかった。
やつらのグループ名は「無x一色創庫」(むいしきそうこ)といい、二人で活動している。ややこしいがイチコの方が男で、タケヲが女だから、おまちがえなく。
おしゃべりで、大とバカがつくくらい人のいいイチコ28才。クールだが、包み込むような母性愛のタケヲ22才。サイコーのでこぼこコンビなのだが、喧嘩はしょっちゅーチャハンジで、この対談でも酔っぱらったイチコの重大失言によりタケヲの退場!というハプニングまで実況中継でお届けしよう。
それではホームレスならぬキャンヴァスレス ペインター、イチコとタケヲの物語ー!

AーAKIRA Iーイチコ Tータケヲ 写真ー迫川尚子
A-イチコもう酔ってんじゃねぇの?
I-いやぁー朝から妹と飲んじゃって・・・
T-まったくいつもこうなんだから
A-酔いつぶれる前に、いきなり逮捕話から聞かしてくれる?
I-あれは、前の話があんの
A-じゃ、まずそれからいって
I-はにわ
A-はにわ?
I-はにわをタケヲが1ヶ月もかかって作ったんすよ。等身大のを3個も。しかも親子はにわで、わざわざあれにすっぽり収まるサイズで
A-あれって、都がホームレス撃退用に作った竹を斜めに切ったような、あのオブジェ?
I-あれも前の話があって
A-いっていって
I-逮捕の前々日くらいに東京ジャーナルだっけ?なんか雑誌が都庁の職員にインタヴューしたんですよ。ボクたちの作品と454個の例の突起物とどっちがアートですか?って。もちろん都の職員は答えましたよ。ボクらのは落書きで、突起物がパブリックアートだって
A-逆の意味で当たってるなぁ、そいつは・・・でもなんで、はにわなわけ?
I-だってはにわですよ、はにわ!
A-今日の会議は、なんて悩みながら出勤してくるサラリーマンの目の前にいきなりはにわ?
I-だってはにわがいたら「あら、はにわさんだわ」ってなごむじゃないすか
A-うーん、たしかになごむと言えばなごむかもしれない・・・
I-タイトルは「食卓」で、陶芸やってる妹にオリジナルの茶碗や皿まで焼いてもらって
A-酒豪の?
I-うん、もう箸置きまではにわで、タケヲのはにわ親子とトラックで運んで取り付けたんですよ。そしたらガードマンがやって来て、ボクが「これおもしろいと思わない?」って聞いたら答えてくれなくて、警察に行っちゃったらしいんで逃げたんすよ。心配になって、いつも写 真撮ってくれてるマイシティー地下の喫茶店ベルクのママに電話で聞いたら、「設置した5分後に警察がやって来て撤去されたよ」って。キレたよね。だってタケヲが1ヶ月も前から作ったはにわが5分後にはゴミですよ。朝4時に逃げて、3日徹夜のまんま埼玉 から9時には新宿に戻ってた。それで、はにわが撤去された突起物に顔を描いたわけ
A-オレ驚いたのは、その顔の表情なんだけど。怒りの顔なんてほとんどなくて、笑ってたり、微笑んでたり、よくそんなキレた状態で、あれだけおだやかな顔が描けたよね。(新聞で見たとき、あのつたない顔たちにオレはちびった)
I-そしたら、ものの10分間も経たないうちにボクは宙に浮いてた。6人のおまわりが両手両足をかつぎ上げて
A-筆や絵の具は飛び散って?
I-もちろん筆だけははなさない。「もどせー!途中じゃいけないんだー!」って叫んでた。その声を聞いてホームレスのおっちゃんたちが出てきて、ひとりが公務執行妨害で逮捕されました。知らないうちにボクの体にケリがはいり、わざとかどうか知らないけど、おまわりは絵の具の缶 を蹴り散らかすんですよ
A-自分で公共物汚してんだから世話ないな
I-新宿警察署連れて行かれてからも、イスとかテーブルけっ飛ばしながら「完成させてからつかまえろー!」とか「絵ってのはな空間を楽しませるもんなんだー!」とか、もうずっと寝てないからハイになってて、わけのわかんないこと8時間ぐらい叫び続けてた(笑い)
A-シャブ中だってそんなハイにはなれないよ・・・
I-ドアんとこで刑事さんたちが「あいつ本物のキチガイだぜ」なんてささやいてるんで、頭来て立ち上がろうとするとイスに手錠でつながれてる
A-それでどんくらい入れられてたの?
I-最長の22日。殺人とか窃盗とか覚醒剤のやつが出入りしてんのに、軽犯罪のボクが一番長いんで、部屋長にまでなっちゃって(笑い)
A-メシどうだった?
I-朝はごはんにたくわんが2切れのってて、味噌汁。昼はパンにジャム、夜はごはんにコロッケとか。ランチョンマットみたいな布きれを床にしいて食うわけ
A-何人部屋?
I-6人部屋が20個近くあって、朝9時の運動の時間だけ房から出られる。そこで中国人どうしとかイラン人どうしとか話して、やくざさんはそこで情報交換して、商談まで成立させちゃう・・・おまえ何歯磨いてんだよ!(爆笑)
現在矯正中の歯を磨くタケヲ
A-君たちはコメディアンか!
I-いっつもこうなんすよ。ボクが真面目に悩んでるとき、後ろで歯磨いたりして
T-あたしだって真面目に磨いてんだよ
A-まあまあ、「りるまざ堂」の酒でも飲む?
I-何?このあやしい緑色!これ、トカゲとかゴキブリ入ってるやつでしょう?
T-仕事の量はあたしの方が多くて、イチコは喋ってる時間が長いんだから
A-毎日面会とか行った?
T-面会どころか、イチコを懲らしめるいい機会なんで差し入れとかを全部差し止めて、友だちとかの情報をシャットアウトしちゃった。いちおう毎日手紙書いてたんだけど、これから豊島園に遊びに行ってきますとか、いろんな人が来て楽しいですとか、みんなにいかにイチコはバカかとくとくと説明して
I-ボクはヒーローのつもりで出てきたら、みんなからバカ扱いされて悲しかった(笑い)
T-ちゃんとステキな差し入れをしてあげたじゃん
I-そうそう、よりによってグレーのビキニパンツの股間の所にウサギちゃんがバンザイしてる絵が描いてあんの。しかもチンポのふくらみで立体になるよう計算されていて・・・風呂の時間って全員パンツ一丁で行かなくちゃいけない規則なんですよ。やくざさんが目ざとくそれを見つけて「にいちゃんええパンツはいとるやんか、こっち来てみぃー!」ボクがおずおず近づいていくと、いきなりパンツのゴム引っ張って中をのぞき込んでペシーン!って、もう生きた心地しなかったっすよ(爆笑)
T-おまけにくつしたとTシャツもうさぎちゃんのおそろい
A-うさぎちゃんルックで決めた部屋長か・・・こわいな
I-だってうさぎちゃんしか着るものないんだから!
A-ラブホテルの制作の時もたいへんだった?
I-けんかというより発狂に近かった
T-だってイチコなんかなんの打ち合わせもしないで、いきなり部屋の隅から描きはじめちゃうのね。「見えるんだ、ボクには見えるんだ!」なんてわけわかんないこと言って、しまいには「あぁー!もう見えなくなっちゃった」ってやめちゃうの(笑い)
T-天井描いてるときに高熱出しちゃって、別の部屋に寝かしつけておいたら、はいはいしてやって来て「タ、タケヲひとりにまかせておけない」なんて、あたしが一番気に入っていた所を塗り直してるの
I-タケヲは、はいはいしながら描いてるボクにひざ蹴り食らわせたんだから(笑い)
T-やってないわよ、そんなこと!おまけにオブジェはお母さんに壊されるしさ
A-えっ、どうしてどうして?
I-そのホテル用に発泡スチロールと粘土で作った巨大なチンポを家に置いておいたら、壊されてて、お母さんに聞こうとしたらいきなり包丁出してきて「こうなったら・・・刺しちがえるしかないわね」なんて構えてて
A-どんな家族じゃー、おまえら!(笑い)
I-こないだAKIRAさんの話したら、「なんか今までのお友達とは違うみたい。ジュン(イチコの本名)も変わっちゃったわね。そういう人とつき合っちゃいけません!」だって
A-い、いったい、なんて説明したんだぁーオレのこと!
T-イチコ捕まったときもお母さんに夜中まで引き留められて「イチコは生まれながらしてダメなんですよ・・・生まれたときに高熱に冒されてねぇ」とか
I-両親ともバリバリの左翼だったらしくて、でもおやじが逃げちゃって4才まで施設で育ったんすよ
T-4才から感性変わってないんじゃないの?
I-人とは違った何かが見えるんだけど、それをうまく口で説明できない。それがなかったら、絵なんか描いてないし。きっと新宿にはその何かがあってボクを惹きつけるんだと思う。あるホームレスのおばちゃんからこう言われたんですよ。「絵の具を買うお金があったら、私たちに寄付しなさい」って。まわりはおっちゃんたちが聞いてて、返事次第では、もうここで描けなくなるかもって状況で・・・初めの頃だったらボクも迷ったかも知れない。でも、もう自信を持って答えられた。「寄付するお金があるんだったら、絵の具を買います」って。
ジーン(AKIRA感動)
I-撤去の時もボクら最後まで残って描いてた。
A-96年の1月24日だよね。オレもアメリカでホームレスやってたからわかるけど、真冬の路上に追い出されたら凍死するに決まってるわな。それで9人も死んでる
I-はじめは活動家たちが通路をバリケードで封鎖したんだけど、機動隊800人にあっけなく破られてホームレスが次々と追い出されていった。ボクたちは24日間かかった作品を完成させるためにちょうどB通 路の真ん中辺りで描いていて、両端から入ってきた清掃車が一軒一軒潰しながら近づいて来る。スピーカーから「もう終わりですよ。出ていってください」と響く中、何人かのおっちゃんたちがボクらに声をかけてくれる。「今までありがとね」とか「ごくろうさん」とか。でも「ボクらはおっちゃんたちになんにもしてあげてないんだよ」ってつぶやいてた。
A-そういうギリギリの覚悟からあの作品群が立ち上がってくるわけだ。だからあの画風だけを見て「ペインティングはもう古い」なんて言うヤツは、時代から目をそらしてんじゃないかな?
I-ボクらも思想とか現代美術なんて全然わからないけど、時代に対する直感だけで動いてるとこあるよね。
A-なぜイチコとタケヲが別々に描かないで、あんなにつらいセッションを続けるのか?なぜキャンヴァスじゃなく、ホームレスの段ボールやラブホテルっていう不特定多数の人間が出入りするパブリックスペース、つまり「ストリート」とオレたちが呼ぶ場所にこだわるのか?ってこと
I-自分一人じゃコントロールできないものの中に、自分を放り込むって言うか、
A-社会とのコラボレーション・・・いや、「時代との共同制作」だよね。このショーモナイ時代に徹底的に関わっていくってことだけが、オレたちが永遠とつながれる唯一の方法なんじゃないかな?
I-そうそう、描いたそばから作品はゴミくずとして捨てられていっちゃうからね。それでも描く。10個捨てられたら、20個描く。1日8時間でも、10時間でも、この1年ほとんど休みなしで描き続けてるよ。タケヲはけっこうサボったけど、ボクだけはがんばった
T-あんたすごいこと言ってくれるわね。イチコが酔っぱらってウダウダしゃべってる間にもあたしは描いてんだから
I-でもつらかったんだから
T-自分でつらくなる原因作ってんでしょう?
イチコは答えられず「りるまざ堂」の酒を飲む。
T-もうー腹たつな!いつも「オレ一人じゃできないよ」なんて言いながら、酔っぱらうと本音が出るのね?
I-愛はそんなあさはかではない・・・
T-なにわけのわかんないこと言ってんのよ。言っちゃいけない最後の一言ってあるのよ!
AKIRAはちょっとあせって仲裁しようとしたが、おもしろいのでやめた。
T-いいわけでもなんでも言いなさいよ
イチコは知らんぷりで横になって、「りるまざ堂」の酒を飲む。
T-もうーショック!あたし帰るわ。AKIRAさんじゃまだったら、こいつ外に放り投げてていいから。今までだってそうやって生きてきたし、体だけは、じょうぶだから
タケヲ、イチコの胸を踏みつけて出ていく。
I-イ、イタッ!マジで痛いよ!待てよ、本気かよ!
T-じゃーねー
しばし、沈黙の時が流れる。
I-なんかボク、たんに惨めなヤツになっちゃった・・・
(ぎこちない笑い)
翌朝、A倉庫の便器に緑色のゲロを残して、イチコはひとり新宿へと帰っていった。

AKIRA's INFOMATION GO GO GO!
原宿パップファクトリーからオズシティーのDUGに変更になった偽アンディーウォーホル展はまたまた大盛況で、ゲストの佐川一政さん、根本敬さん、吉本興業のもりまん、クレージーSKB、スメリー、猿のみなさんをはじめスタッフやお客さんまで本当にありがとう。

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