楽園にて

オレのチンポをひとりの老人がしゃぶってる。
銀色がかった白髪が、うす汚れたトイレの落書きをバックに規則正しく揺れている。時々老人は血管が浮かぶまぶたを上げて、オレの顔色をうかがう。薄い唇が蛍光灯に反射する。老人の手は直接骨の上に皮膚を移植したように、太い静脈が交差する。
オレはふと、自分の子供に乳をやる母親の気持ちがわかったような気がしたが、あまりにバカバカしい連想に、ひとりで首を振る。老人はめざとくそれを見、何を勘違いしたか、可愛いうめき声まで上げてリズムを早める。状況を判断したオレは、ギュッと目を閉じ、ワイキキビーチに散らばる女の子たちを必死で思い浮かべる。(何度か試してはみたが、オレはゲイではない)
「早くJ0B(仕事)を終わらせなくちゃ。永遠にこの老人はオレのチンポからはなれてくれないぞ・・・」

せこいコケインビジネスに失敗したオレはまた一文無しになったものの、最低一日1パックの自分のヘロイン代だけは手に入れなくちゃならない。友人や他人をだまし、裏切り、盗んだ。
治療をしてくれる病院を探したが、4年も不法滞在している外国人を受け入れてはくれない。ようやく教会がボランティアで行っているグループセッション(同じ悩みを持つ中毒者が対話によってお互いを慰めるようなもの)へ行ったとき、最初にプロフィールを書き込む用紙を渡される。警察には絶対見せないとの但し書きの下に、「貴方が関わった犯罪にチェックして下さい」と窃盗から殺人まで列んでいる。しかし他のドラッグならともかくヘロインを対話で治すことは不可能だ。
やっとハーレムホスピタルがメセドン治療(第二次大戦の時、ヒットラーがアフガニスタンからのヘロインルートをロシア軍に断たれたために人工的に作り出された疑似ドラッグで、これを飲むとヘロインを受け付けづらくなる)を施してくれるが、それを裏のルートではヘロイン2パックの値段で売れることを知り、またやってしまう。
それからサウスブロンクスの針治療所に移されるが、ここにくるのはもう廃人たちばかりだ。
ある日「エイリアン」を見てる途中、満員の映画館を絶叫しながら飛び出す。「このままでは発狂する。誰かに電話して意識を正常にもどさなければ!」何十人もの友達がこれもだめ、あれもだめと、ついにたったひとりの話し相手も見つけられぬ ままアドレスノートは終わった。
夢の中でオレはドアのたくさんついた部屋に住んでいた。しかしいざ出かけようとすると、全てのドアはロックされていた。すると、ひとつだけ向こうからすーっと開くドアがある。オレは喜んで飛びだそうとした瞬間、すんでの所で踏みとどまった。足下には奈落の闇が口を開けていたのだ。オレはバスルームで手首にあてた剃刀を引く直前で、正気に返った。少しだけ滲みだした血は、子供の頃なめた電池の味がした。
数日後、なんとか200ドルをかき集めるとハワイへ飛んだ。

それにしても笑えるよな。太陽のSUN SUNと降り注ぐ中、ビーチボーイやビキニガールのたわむれる砂浜で、青白い腕中に注射傷つけたガリガリ男が悶えてんだぜ。もちろん本人は真剣に禁断症状と闘ってるわけなんだけど、ヒデー場違い。しかもニューヨークから一冊だけ持ってきた本ってのが、ボロボロになったウォーホルの画集。最初の一週間は日陰でそれ読んで暮らしたけど、どうもウォーホル=アート=ニューヨーク=ドラッグという無意識の連想に気づいて、わざわざマクドナルドのごみ箱に捨てに行った。
せいせいしたオレは、救いを海に求めることにした。はじめは10メートルも泳げなかったのに、気がつくと3時間でも4時間でもへーきで泳ぎ続けられるようになっちまってた。
とーぜん金も底をつくわな。ワイキキで一番安い雑魚寝バンガローも一週間以上滞納してるし、ベビーシッターの面 接も断られる。
ダウンタウンを散歩していると、白髪の老人が声をかけてきた。紺のブレザーに白いポロシャツ、おびえたような茶色い目をしている。
「ぼーや、メシでもつきあわんか?」
「メシより金に困ってんだ」
「それなら話は早い。BLOW JOB!わしがおまえにしてやって30ドル」
オレってゲイじゃないし、こんな気持ち悪りーじじいに噛みちぎられたら、泣くに泣けない。それにしても背に腹は代えらんねえし、ほら、「ゲイは身を助ける」って言うだろ?
「うーん・・・50なら考える!」
老人は静かにオレの手を取って、うらぶれたビリアード場のトイレへ入っていった。アンモニアのニオイが鼻を突く。壁には指でなすりつけられたクソ、罵詈雑言に満ちた落書き。
老人は便器の上に腰かけると、オレを前に立たせた。尻に手を回し、頬を股間に押し当て、うっとりと目を閉じた。

禁断症状もやわらぎ、ついに職がめっかった。なんとジェットスキーのインストラクターってとんでもない仕事だ。もちろんチャリンコ以外運転したことないオレだが、そこはそれ、生きるためなら何でも覚えるもんだ。
それにしても笑えるくらいの大転換。ハワイ海にあるオフィスへ住み込み、朝起きると海に飛び込んで顔を洗い、ついでに朝ション(シャンじゃない)もしちゃって、1日8時間、海に浮かべた筏の上で5、60人のビキニギャルに乗り方を教える。一緒に働いてたジョンがボディービルのチャンピオンだったんでいっしょにジムに通 って、オレも気がつきゃムキムキマン。
まさにハワイは楽園だったんだけど、満ち足りた生活ってのがどうも苦手なオレはまた性懲りもなくニューヨークへ戻っていくんだ。

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