『 END OF THE WORLD』


「何やってたのよ?連絡とれなかったからあたしたちだけで決めちゃったわよ!」
満知子は怒乳をふるわせて怒っていたが、小説『子宮外妊娠』をえらく気に入ってくれた。
さあ、去年の11月に大成功を収めたDESは同じ西麻布のバスチーユで第二回のEXPLOSITION『 END OF THE WORLD』を開くこととなった。
前回の反省点をもとに、役割分担やより大きな作品が展示できるようにアーティストを14人、ライヴも11組に減らした。前回のように何でもかんでもオレがやってしまうと、オレも負担が大きすぎるし、みんなが伸びない。DESを特定の団体にしたくはなかった。いつでも出入り自由の風通 しのいい状態に保っておきたい。DESはグループ名でも場所の名前でもなく、異なるジャンルの人々を引きつける“磁石”みたいなもんにしたかった。
3月25日、14人のアーティストはゆったりと自分の作品を展示できた。
相原ヤス、早川星太郎、三田村光土里、菅間圭子、高村まどか、川野弘毅、DPZ加藤史子、石黒一華、三浦健爾、小平匡則、大橋秀樹、ニューヨーク在住の山口シュンスケ、写 真旅行記『ホーリーヒマラヤ』や『ネーコル』を出版した伊藤健司。
オレは今回書道作品に挑戦した。これがのちにチベットで確信にいたり、展開していく『スカトロアート』の原型だ。
まずガラスの額に入った色紙には、2本の鼻クソが支え合って『人』という字が書かれてる。この『人』シリーズは垢や爪や日焼けでむけた皮や陰毛ヴァージョンがある。となりには鼻水で書かれた『川』という字がある。かなり濃い青っ鼻だったんで、乾いてもナメクジがはったようなテカりと泡の跡が残ってる。(作品を見る)
つぎはさまざまな布で作ったオリジナルの掛け軸に、さまざまな素材で書かれた文字の関係が笑える。セーラームーンの掛け軸に精子で書いた『美』、エルメスの掛け軸にオシッコで書いた『気品』、(作品を見る)
ミッキーマウスの掛け軸に血で書いた『根性』、サイケデリック模様の掛け軸にゲロで書いた『愛』、(作品を見る)これが一番苦労した。無理矢理大量 の酒を飲んで、やっともどしたと思ったらもう消化されていて胃液しか出てこなかった。2回目の挑戦ではサイケデリック模様の掛け軸に合ったカラフルさを出すため、赤いニンジン、緑のピーマン、黄色いコーン、ベージュのポテトなどを使った肉野菜炒めを食べた。1時間後くらいから茶色がかったベルズ・ウィスキーを飲みはじめ、やっと“理想的なゲロ”が吐けた。
迷彩模様の掛け軸にエバラ焼き肉のタレで書いた『栄光』、唐草模様の掛け軸に麻婆豆腐の素で書いた『友情』、(作品を見る)
イギリスのタータンチェック模様にビゲン白髪染めで書いた『希望』、ハワイアンアロハの掛け軸にイワシの内臓で書いた『楽園』。(作品を見る)
つぎは4つの短冊に書かれた『おともだち』という文字だ。こんな説明書きがついている。この4つの作品はそれぞれカレー、ミートソース、味噌、クソで書かれています。さて クソで書かれたのは1234のうちどれでしょう?解答用紙に記入し 箱にお入れください」(作品を見る)
御丁寧にも短冊は匂いが嗅げないように、密封されている。ホント作ったオレでさえわかんないくらいに4つの素材は似ていて、50枚くらいの解答用紙の中で正解者は10人もいなかった。それにしても他人のウンコを真剣に見つめるお客さんの姿には、みんな大笑いしていた。
AスペースとBスペースをつなぐ通路は鏡ばりになっていて、そこに祝儀袋と弔儀袋をはりつけ、人間関係の本音を書道する。結婚式などに使われる祝儀袋は『呪ってやる』『詐欺師』『正夫を返して』『墓場』。葬式などに使われる弔儀袋には『せいせいしたわ』『地獄へ堕ちろ』『犬畜生』『ボケ老人』などと書かれてる。
アーサー・C・クラークなどの翻訳者でもあり、現代美術評論家でもあり、バーコードをテーマにしたアーティストでもある森下泰輔は、わざわざ近くにあったクラブ『イエロー』までトイレを借りに行った。それというのもバスチーユのトイレに展示してあったオレの写 真作品『IN&OUT』を見た瞬間、恐くて逃げ出したからである。それは“IN”つまり自分のこれから食べる物と、“OUT”消化して出た物つまり自分のウンコを日記のように撮り続けた写 真を交互に50枚ほど並べた作品だ。(作品を見る)スカトロマニアでないかぎり、オレだって他人のウンコなんか見たくない。
「まったくもう、これはアートの名を借りた犯罪ですよ!」
DESの連中は期間中、目をつぶってトイレを使ったという。

わずか3日後の3月27日(日)の午後3時からライヴははじまった。
暗転になった会場に森下さんのヴィデオ『EMERGENCY』が浮かび上がる。難民、飢餓、殺戮などをコラージュした作品だ。
それにかぶせて『HAPPY END OF THE WORLD』をオレが歌う。
そのままエレクトリック・ギターの森下さんとエレクトリック・ピアノの菅間さんが『Pー1』がはじまる。ヴィデオプロジェクターによってステージの壁面 に大きく投射された時計が秒を刻む。正確な1分ごとに森下さんのギターノイズと菅間さんの童謡、シャンソン、クラシックなどのピアノがくりかえされる。ふたりとも、いや観客も、これほど真剣に時計の秒針を見つめたことはないだろう。まさに緊張させられるパフォーマンスだった。
土方巽の愛弟子和栗由紀夫率いる好善社の中村れいこのひとり舞踏『年老いた胎児と生まれたての老人』がはじまる。真っ白に体を塗ったれいこの繊細な踊りに観客は魅了されたいた。
つぎはオレのパフォーマンス『お注射の時間なのに』だ。オレはニューヨークでコケインの売人をやった金で、ヘロインを打って暮らしていた。その2年間、毎日3回の静脈注射は欠かしたことはない。そのプロ級のテクニックを使ってドラッグを“IN”するのではなく、血液を“OUT”するパフォーマンスを思いついた。
左利きのオレは抜き取ったベルトを右腕に巻きつけ、先端を歯でくわえる。ひじの内側をパンパンたたくと、うす緑の静脈が浮き上がってくる。
「うわー、やめて!」「ホントにやるの!」などと観客の声の飛び交う。
針を打ち込む角度は45度くらいがいい。浅すぎると血管が逃げてしまうし、深すぎると突き抜けてしまう。親指の背でピストンを引くと、鮮やかな血柱が逆流してきた。ベルトを噛みしめていた歯をはなし針を抜くと、一筋の血液が腕を流れ落ちる。床におかれた掛け軸に書道する。やることがエグイだけに、対極にある笑いが欲しかった。そういうバランス感覚は創作に最も欠かせないものだと思う。そこでオレは『安全第一』と書いた。
つぎは小川てつオと児嶋扶砂子のアカペラパンク猿だ。
若干23才の小川てつオは天才中の天才だ。10年間のブランクから帰国したオレにとって“最も影響を受けたアーティスト”と言ってもいい。彼の作品をいくつかを紹介しよう。
『南青山に豪華プールOPEN』というポスターが街にはりだされる。キャッチコピーの「君はまばゆいマーメイドさ」とか「冬のプールはいけないトキメキ」につられて、客は水着を持ってやってくる。プール、いやギャラリーの入口には実際プールで使われている注意事項を書いたアクリル板がかかってる。「さあ、泳ごう」と思って入っていった客はけたたましいホイッスルに注意される。「服を着たままプールに入らないで下さい!」驚いて見上げると、真っ白いギャラリーの中央にプールの監視台があり、スイミングパンツとキャップ姿の小川てつオが自分を指さして注意している。まんまとダマされたことに気づいた客のなかには、監視台を揺すぶっててつオを落としたり、「せっかくだから」と水着で床を泳いだりする人もいたという。
『銀座全100ギャラリー同時多発個展、記帳』というポスターが、また街中にはりだされる。ポスターには銀座にある100個のギャラリーの名前が勝手に書かれている。こんなすごい巨匠小川てつオの作品を見に行くと、全然ちがう人の展覧会をやっているではないか?しかたなく「サインでもして帰るか」と芳名帳を見ると、なんとそこには『巨匠小川てつオ』とサインだけがしてある。興味を持った客が銀座中のギャラリーをまわるが、どこでもちがう作家の展覧会をやっていて、芳名帳には必ずてつオのサインがあった。これはどこのギャラリーにもおいてある芳名帳に自分の名前を“記帳”する書道作品なんだ。
このてつオとコンビを組む児嶋扶砂子は二十歳くらいのちっちゃな女の子だ。頭はジョキジョキに丸め、パンティーやブラジャーなんか絶対つけない野生児だ。
ステージをところせましと飛びはねながら『アナーキーイン富士五湖』を絶叫する。
「山中湖ー!河口湖ー!西湖!精進湖!本栖湖ー!」
『サンダル下駄箱パキスタンライフ』とか『電動鼻毛カッター』とか『養豚ジョー』など徹底したナンセンスさがたまらない。
前回飛び入りで参加したバーバラが松尾多鶴子のインドパーカッションに合わせ、短歌を朗読する。今回のテーマ『 END OF THE WORLD』に合わせたものばかりだ。
「世界の崩壊を心待ちにして、笑っているよな明け方の薔薇」
つぎは相原ヤスのスライドをバックに三浦健爾ひきいるオルタナティヴバンド、コメディアナ・ディヴィーナがおしゃれな演奏を聴かせてくれた。
これに続くのが田村雅信の童話語りだ。『裸の王様』を大きな身ぶりと豊かな表情で、子供たちに語りかけるように演じた。
そこへ神雅喜が月光仮面のカッコウであらわれた。別の仕事を急いで片づけて、そのまんまのバスチーユへかけつけてくれたんだ。さあ、観客は大喜び。パントマイムの基本を神さん流にパロった作品だ。天から下りてきたロープを一生懸命引きずり落とそうとして苦労したあげく、終いにはそのロープで首をくくって死んでしまう。
ファンクバンド、クンタキンテの演奏がはじまった。ゆったりとしたレゲエのリズムに体が自然と踊り出す。今回ゲストで加わったネパール人のフルートも最高だった。
星太郎の詩と後藤達哉の小説が朗読された。
最後には待ちに待った10円穴きのこの登場だ。オレはパンフレットにこう書いた。
「東京アンダーグラウンドシーンに衝撃的デビューを飾り、94年現在、世界中の音楽シーンで最も過激かつエンターティメントに満ちたステージをみせる女性バンド」
実際このあとジョンゾーンに認められアメリカツアーを成功させる。
前回出てくれただっちゃんはアフロヘアーにサンバイザーをつけ、ミニスカートから血まみれのパンツをわざとのぞかしている。のんちゃんは顔を黒く塗り女子プロレスラーのユニホームを着ている。そして今回はリードヴォーカルの聖子ちゃんがいる。悪魔のような化粧に両胸にBとアップリケされたブラジャー、老人用紙おむつをつけている。ドラムとキーボードも加わってフルヴォリュームの演奏がはじまった。

♪アルツハイマー、アルツハイマー
何が何やら、誰が誰だか、全然おぼえてねえよ
縛られたり、つながれたり、いつか隠れて食ってやる
最後はひっそり逝きたいもんだ
ボケても人間、ボケても人生、ボケても生きる、ボケても!
「のりこさ〜ん、メシはまだかね〜?」
「さっき食べたばかりじゃありませんか!」
「うちの嫁は飯も食わせねえ、鬼嫁じゃ〜!」
♪アルツハイマー、アルツハイマー
どこへ行ったか、あそこで食べた、何にもおぼえてねえよ
垂れ流しで、性欲丸だし、生き恥とっとと死んでくれ
生きてりゃめいわく、死んだらありがたい
あんたら隠れて狙ってる
ボケても人間、ボケても人生、ボケても生きる、ボケても!♪

圧倒的なパワー、人間のエゴをえぐり取った歌詞、バスチーユはアンダーグラウンドで吠える獣たちの巣窟だった。

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